2014/07/09
オーナーへの提案
≪提案に必要な3つの視点≫収入増・支出減・リスク源
そもそも管理会社は何のために「オーナーへの提案」をするのだろうか?
答えは至ってシンプル、「オーナーの賃貸経営をよりよくするため」だ。
では、賃貸経営をよりよくするとは具体的にどういうことなのかだが、
大きく分けると次の3つに分類することができる。
①賃貸事業の収入が増える、
②賃貸事業の支出が減る、
③賃貸事業のリスクが減る。
つまり、これらのいずれか、または複数が叶うものであれば、オーナーの賃貸経営にとって意味のある提案になる。
例えば、「この募集条件では決まらないので、募集家賃を下げましょう」も立派な提案の一つだ。いつまでも募集部屋が埋まらなければ収入はゼロ、しかし賃料を下げてでも入居してもらえば収入が生まれる。
3つの分類の一番目を叶える提案になる。
実は、普段の業務で何気なくやっていることも、十分な「オーナー提案」になっていることはたくさんある。「オーナー提案」なんて難しいと構えずに、まずは自信を持ってもらいたい。
提案のフロー
オーナーへの提案ステップをフロー化すると
情報ネタの発見
発見した提案ネタの分析検討
オーナー提案
効果検証
適宣改善・修正
提案項目を探し出すためには、賃貸経営をよくすることができるネタはないかと日頃から意識をし、様々な情報を集めることが求められる。
例えば物件の現地に行った際、ごみ置き場がごみで散乱していたとする。清掃すれば「散らかっていたゴミ置き場の対応」という業務は終了だ。
しかし、これをオーナー提案につなげるためには次のようなことが必要になる。
①なぜゴミが散乱してしまうのか?という疑問を持つこと、
②ゴミが散乱しないようになれば住環境が良くなり、物件の人気が上がるのではないかと気付くこと、
③ゴミが散乱しないために、ごみ収集ボックスの設置をしてはどうかといったアイデアが出ること。
そして、このゴミ収集ボックスの設置という提案ネタを発見したならば、それが提案するに値するかを分析検討するステップに進む。
つまり、オーナーの賃貸経営が良くなるのかを検証するステップだ。ここでの分析によって、提案に説得力を付加することが出来る。
ゴミ収集ボックスの設置がオーナー提案に値するとなれば、実際にオーナーに持ち込むことになる。ここでは、オーナーに提案を理解・納得してもらうためのプレゼン力が必要になる。
同時に、日頃からのコミニュケーションや情報提供が、オーナーが提案を受け入れてくれるためには大切になる。いくらよい提案であっても、普段はコミュニケーションがないのに、ある日突然、「こうしませんか。かかる費用は○○万円です。」と話を投げられて「はい、そうですか」と言うオーナーはいない。
オーナーが所有する物件の状況や賃貸市場のトレンドなどを、日常的な訪問や連絡、会報誌やセミナー愛妻を通じて提供しながら、オーナーとの信頼関係を築いておいてこそ、こちらからの提案が届くことになる。
オーナーが提案を受け入れてくれたならば、その提案を実行するステップになる。
実行をした結果、その効果を検証し、必要に応じて改善や方向性の修正をすることも大切だ。
「オーナー提案」は難しく考えすぎるものでもない。しかし行き当たりばったりでなんとなくできるものではないのも確かだ。時間を生み出す知識が必要となる。前述した「募集賃料を下げましょう」など、多かれ少なかれ我々は日常業務の中で、「オーナー提案」はしている。しかし、オーナーが期待しているほどに出来ているかと聞かれて「YES」と言える賃貸管理業者は少ないと思う。そこで、オーナー提案が「なぜできないのか?」を考えてみよう。
主な理由は、「提案している時間が取れない」「何を提案していいのか分からない」の2つだろう。ということは、これらを解消すれば提案ができるようになる。
賃貸管理業務は、非常に多岐にわたり、しかも細かな業務の集合体だ。
入居者募集に始まり、建物や設備の保守管理、入居者対応、出納業務、退去時対応等々日々やることは山のようにある。
高い能力や専門性は必要ないが、対応に時間を要する業務が多いのも賃貸管理業の特徴だろう。入居者からの一般的なサービスリクエスト対応、簡単な現場対応、新規契約書や更新書類の作成、英訳締結・郵送物の回収、家賃集金や軽微な滞納督促などはそれに当たるといえる。
〈賃貸事業の収入を増やす〉
提案するネタを見つけ出すことは、基本的なことである一方で難しい問題でもある。この問題を解決するには、前述した3分類の視点から物事を考えるとよい。
まず、賃貸事業の収入を増やすことは、賃貸経営をよくする方法として、最も分かりやすく、またオーナーにも喜ばれる。
「収入を増やす」視点で考えるにあったって、まずオーナーにはどのような収入・支出があり、キャッシュフローをどう考えるかである。
管 理会社から提案しやすいものは、物件保有時の収入を増やす方法にある。
つまり、・予想最大賃料収入や・その他収入を増やすことをアイデアとしては次のようなものが考えられる。
①間取りを人気のあるものに変更する、
②部屋の用途をニーズにあるものに変える(コンバーション)、
③人気のある設備などを導入する、
④デザイン性を高めるリノベーションをする、
⑤募集条件を変更する(ペット飼育可にするなど)、
⑥太陽光パネルを設置して売電収入を得る、
⑦屋外看板の設置による収入を得る。
いろいろな方法が考えられるが、共通しているのは「市場」を知っている必要があるということだ。
「どういった建物や部屋が人気なのか?」「新たな収入を生むようなサービス・商品はないか?」という情報を知らなければ、収入を増やすネタは見つからない。
また、目先だけではなく中長期の視野をもって考えることも大切だ。
例えば、③の人気のある設備を導入するが、当然導入時には費用がかかる。一時的に収入が増えるどころか逆になる。
しかし、その設備導入の結果、物件に人気が出て家賃が上がり空室も減る。そして、その設備が寿命を迎えるまでに、設備導入および維持費用を超える収入増があるならば賃貸経営にとってはプラスになる。
※実際には、この基本的な考え方に加えて、その設備導入費用の回収にかかる、期間の長短、導入にローンを使った場合などを複合的に考える。
〈賃貸事業の支出を減らす〉
「賃貸事業の支出を減らす」という視点で見ると、主には、物件保有時の支出を減らすという視点になる。
つまり、⑥運営経費、⑧借入金の返済、⑩所得税・住民税などを減らせないかと考えることになるが、中でも⑥の運営経費が管理会社の力が及びやすい。
また、②の空室損・滞納損についても、オーナーの支出(収入)に繋がるので、意識すべき大切なポイントになる。
この視点では、「解約の抑止」という考え方がこれから求められてくるだろう。
入居者保持という意味から、テナントリテンションといわれたりする。退去後の空室損失だけでなく、入退去時のオーナー負担が増加している昨今、解約はオーナーにとって百害あって一利なしだ。
結婚・転勤・卒業などのやむ得ない理由による解約もあるが、気分転換・物件や管理の問題が理由かもしれない。敷金や礼金の減少で引っ越しがしやすくなっている最近は、そういった「なんとなく解約してしまう」パターンが増加傾向にある。
調査結果では、2013年に1年間に全国の入居者から受け付けた解約7825件のうち、「気分転換」「物件の問題」「管理の問題」「近隣住民や環境の問題」といった理由が502件あった。率にして約6.4%にもなる。このような無駄な解約を防ぐことが出来れば、賃貸経営には大きなプラスになる。
入居者に定期的にプレゼントをする、階段的に家賃を下げる、不良入居者がいない環境づくり、入居者パーティーの開催、入居者に応じたポイント、物件を魅力的なものにするグレードアップ工事などアイデアは様々考えられるが、テナントリテンションを積極的に実践できているオーナーや管理会社はまだまだ少ない。
〈賃貸事業のリスクを減らす〉
賃貸事業には様々なリスクがあるが、オーナーがそのリスクの存在を知らないことも多い。また、幸いにも事故などが発生さえしなければ損失もないため、リスク対策に費用をかけることを避ける傾向もある。しかし、いざ事故などが発生した場合、多額の支出を伴うこともあるので、リスク対策はやはり必要であり、賃貸経営の安全度を高めるという意味でも軽視できない。
賃貸事業におけるリスクは次のようなものが考えられる。
賃貸事業におけるリスク
①空室や滞納
②建物や設備等のメンテナンス不足、老朽化による事故
③入居者の自殺・孤独死
④地震・津波・台風などの天災地変
⑤火災
⑥近隣トラブル
⑦法律や税制の改正
⑧市場の悪化・金利上昇など
リスク対策をするためには、まずどのようなリスクがあるのかを把握することから始まり、リスクの分析、対策を検討、実行となる。
なお、リスク対策は、「収入を増やす」や「支出を減らす」のように損得では考えにくい。リスクによる損失発生の「頻度」と、損失発生時の「強度」の組み合わせ、そしてオーナーのリスク許容レベルによって対策を検討することになる。
リスク対策の方法は、大きく分けて「除去」「軽減」「保有」「移転」がある。
「除去」 損失発生原因そのものを無くしてしまう。賃貸物件の売却や賃貸事業から撤退などもこれに当たる。最も確実なリスク処理の方法ではあるが、同時に利益を得る可能性も失う場合もある。
「軽減」 リスクの軽減は「予防」と「低減」に分けることが出来る。
「予防」とは、損失が発生する頻度を減少させることを目的とする。防犯カメラを設置して、防犯効果を高めるといったものはこれに当たる。
「低減」とは、損失の強度を減少させることを目的とする。耐震補強工事を施し、地震発生時の損害を少なくするといったものがこれに当たる。
「保有」 損失の発生に対して、自己費用で対応すること。リスクの存在を知りつつ、損失発生時に自己の費用で対応できると判断して特段の手を打たない。修繕積立金をためておくことなども、リスク保有の一種と言える。
「移転」 損失への対応費用を、他者に頼る方法火災保険や地震保険、施設賠償責任保険への加入がこれに当たる。滞納保証会社の利用といったものもリスクの移転の1つ。
〈提案を期待するオーナー〉
以上のように、オーナー提案するためには、
①提案をするための時間確保
②提案ネタを見つける情報力
③提案に説得力を持たせる分析力
④提案を受け入れてもらえるためのプレゼン力
⑤日頃からの信頼関係の構築など、
求められるものも多く、能力も必要になる。
しかし、何よりも大切なのは「オーナーのために提案する」という意思と行動力だ。提案することに何となく臆病になったり、おっくうに感じたり、敬遠気味になったりということはないだろうか?
我々が思っている以上に、オーナーは管理会社からの積極的な提案を期待しているものなのだ。