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縮小都市ライプツイヒ

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▼”「不動産」を市民に取り戻す”~縮小都市ライプツイヒと公益的不動産業「ハウスプロジェクト」~
1.縮小都市と「不動産」
人口減少、産業構造の転換によって高度成長を前提とした産業経済システムが揺らいでいる、これは日本だけの話 ではなく、ドイツも同様だ。特に旧東ドイツに属していた地方都市ライプツィヒは典型的な「縮小都市」だった。
1930年代に70万人強あった人口は、第二次大戦やドイツ統一により、2000年には40万人強まで落ち込んだ。当時市内の空き家率は20%弱、地区によっては50%以上にのぼっていた。特にインターシティーの築100年を超える住宅・商業建築群は、改修投資を回収できるアテがないため、ただ放置されていた。「不動産」は、成長段階にあれば「資産」だが、このような状況の都市では単に所有者の私財を食いつぶす「お荷物」であり、行政も市場価値を失った建物に対しては取り壊して緑地にするくらいしか手がなく、根本的に都市をよみがえらせる手立てを失っていた。

2.公益的不動産事業「ハウスプロジェクト」そんななか、市民自らが底値となった空き家を買い取り、(多くはDIYで) 改修していく「ハウスプロジェクト」が盛んになっていった。コーポラティブハウスの一種であるが、運営を行っているのが公益的な目的をもった市民団体であることが特徴である。ライプツィヒには20軒以上のハウスプロジェクトが存在している。
その一つ、ライプツィヒでも最も衰退が激しい通りの一つであるゲオルグ・シュヴァルツ通りの人口には「クンツシュトツフェ」という団体が運営を行うハウスプロジェクトがある。20人ほどの市民が集まり、2011年に不動産マネージメントを行う有限会社を設立し、一棟の集合住宅を600万円ほどで共同購入した。彼らは現在に至るまで自ら工具をもって、築100年以上の住宅を少しずつ改装している。「クンツシュトツフェ」はあくまで公益法人であり、「どんな社会階層の人でも支払える家賃で貸し出す」ことと規約で決められており、改装の終わった住居は一律2.5ユーロー/㎡で貸出されている。
 この値段はライプツィヒの平均(約6ユーロ/㎡)と比べても極端に安く、若者や駆け出しのアーティストなどが多く入居している。また、建物の地上階を近隣の人々が自由に使える共同食堂や共同工房に改装し、地域に開放している。
「衰退が激しい地域では、自分たちで文化とコミュニティを立ち上げる必要がある」と、メンバーのダニエラは語る。
同じく衰退が激しく、「住みたくない通りナンバーワン」の称号をもつアイゼンバーン通りには、「ライプツィヒの子どもと両親の支援」という市民団体が運営する食育施設「子どもレストラン」がある。毎週末のように子どもたちが集まり、イベントが行われている。運営は常駐スタッフが3人、学生のインターンも受け入れている。この活動を経済的に支えているのは行政や企業の補助金ではなく、不動産事業である。メンバーらは2007年に市民団体を立ち上げ、3棟の集合住宅を個人の不動産オーナーから約500万円という破格の値段で買い取った。元オーナーとしても、投資してもほとんど利益の見込みのない物件ならば、公益団体に「寄付」することで税金控除を受けたほうが得策だと判断したという。
 その後、メンバーは自分たちで各住戸を少しずつ改修し、現在では25戸の住戸を貸し出している。市民団体の規約で、これらの住居は親がアルコール依存症だったり、失業中だったり、と経済的・社会的困難を抱える家庭に優先的に貸し出されている。また、国から支給される家賃補助で十分支払える家賃(およそ 4.5ユーロ/㎡以下)とすることも団体規約で決められている。入居者は「子どもレストラン」のイベントに参加し、自ら手伝うこともある。「一緒の場所で『生活』することでこそ信頼関係が生まれ、細やかで親密な『支援』ができる。」と代表のカリンは話す。
  このように、不動産事業と公益的事業を連携させるハウスプロジェクトによって、市民らが自律的且つ継続的に活動できる仕組みができつつある。

3.「共同住宅シンジケート」 ハウスプロジェクトは、ライプツィヒに限らず全ドイツ中に存在している。そのネットワークの中心にある組織が、フライブルグで1992年に始まった「共同住宅シンジケート」だ。この組織は70~80年代に盛んになったスクオツター(法的な根拠がなく空き家を占拠するグループ)らが中心となって立ち上げ、現在では「合法的」にハウスプロジェクトをサポートする業務を行っている。現在ドイツ全国の73のハウスプロジェクトと23の準備段階のグループが加盟している。シンジケートの特徴は、各ハウスプロジェクトから「連帯金」を徴収し、これを新たなハウスプロジェクトの資本金とする点と、建物が投機目的で売られそうになった時に「拒否権」を行使する点だ。不動産から生まれる利益を個人のものにするのではなく、より多くの人が長期的に手頃な家に住めるよう社会に還元している。ライプツィヒのハウスプロジェクトのうち、6件がシンジケートの加入している。その中でも最も若いのが2013年に始まった「ヴルツェ」だ。メンバーの20人は、ほぼ全員が20代の学生であり、シンジケートに有限会社の作り方を始め様々なサポートを受けている。メンバーは、改装でホコリまみれになりながら、「ここをオルタナティブな文化の発信拠点にしたいんだ」と意気込む。シンジケートは経験も資本も無い若者たちが都市に関わり理想を実現させることをサポートしている。

4.ハウスプロジェクトと都市の持続可能性
さらにライプツィヒ市行政も、2013年からハウスプロジェクトをサポートするプログラム「東へ」を行っている。市は「ハウスプロジェクトによって新たなアイデアをもった人々が入り込み、様々な文化・経済活動を行うことで、統合的で持続可能な発展の礎となることが期待される」として、衰退の激しい東地区の空き家のオーナーとハウスプロジェクトに興味のあるグループのマッチング、情報交換や手続きなどを行っている。持家奨励にとどまらず、そこで地域社会に波及する活動を行う市民をサポートすることが政策の目標だ。 このように、ライプツィヒでは、価格が底まで落ちたことをきっかけに、市民にハウスプロジェクトという公益的不動産事業が広まり、その活動が都市の文化、社会、そして経済的な持続可能性へつながると期待されている。市民が不動産を取り戻すことで都市の魅力が再度根底から形成されていくとしたら、それが都市の力の原点なのだろう。
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